夏の思い出

夏の夕暮れ、陽が落ちて虫の声が耳に心地よく響くのを聞いていると、いつも思い出す事があります。
それは子どもの頃、父の田舎へ遊びに行った時の事です。

父の田舎は農家を営んでいて、夏になると美味しい夏野菜や果物がたわわに実ります。いつもは宅急便で私たちの家に送り届けてくれるのですが、たまたま父がまとまった夏休みを取れたので、家族で田舎に数日間泊めてもらう事になったのです。

普段は都会で暮らしている私たちにとって、田舎での生活はどれもこれも新鮮なものでした。うっそうと生い茂る雑木林、流れる清流、電球に群がる羽虫、夜になると下がる気温、全てが目新しく、兄と共にはしゃいだのを覚えています。

祖父母は私たち家族を歓迎してくれて、畑に連れて行って野菜や果実の収穫体験をさせてくれました。取れたてのきゅうりを洗って、丸々1本齧ったり、桃を収穫して小さな毛で身体が痒くなり、そのまま川に飛び込んで身体についた毛を落としたり、その川で泳ぐ魚を発見して驚いたり、とにかく楽しい事だらけでした。

蚊にさされて痒くなったり、泥だらけになってしまったり、都会で暮らしていると不快だなぁと思ってしまうような事も、大自然の中では気になりませんでした。

外で遊び疲れると、扇風機の風を浴びて、蚊取り線香の香りに包まれて、うとうとと昼寝しました。目覚めると既に薄暗くなっていて、祖母に出してもらった麦茶を飲んで、風呂に入り、美味しい食事を楽しみました。

そして、忘れもしない一番の思い出は、川辺で飛び交う蛍たち。
丁度父が蛍の時期に合わせて休みを取ってくれたおかげで、沢山の蛍が飛び回り、あちこちで光が点滅し、流れ星のようにスーッと闇夜の中に光の線が引かれ、そのあまりの美しさに私は言葉を失って、口を開けてただひたすらに凝視しました。

人生で、何度か蛍を見た事はありましたが、これほどまで多くの蛍が飛び交っている様子は見られませんでした。
幻想的な夏の夜の風物詩に心打たれ、子ども心ながら感動しました。

祖父母宅に戻って、取ってきた桃を食べて、虫たちの子守唄に誘われて眠りに落ち、そんな日々を数日間過ごして、良い思い出ができました。

もう祖父も祖母も他界し、私は結婚し、私の子どもにとっての田舎は、私の実家、つまり都会に家を構えているため、もうあの体験はさせてやれないのですが、主人から「田舎体験ができるらしいぞ」という情報をもらったので、今後連れて行ってあげようかな、と思っているところです。

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